説明

ウォームギア

【課題】ウォームギアにおいて、バックラッシに関連した不具合を従来技術よりも軽減する技術を提供する。
【解決手段】本発明に係るウォームギアは、回転可能に支持されていると共に外周に歯面を有するウォームと、前記ウォームとは方向が異なる回転軸を中心に回転可能に支持されていると共に前記ウォームの歯面と噛み合う歯面を外周に有するウォームホイールとを備え、前記ウォームホイールの歯には、潤滑剤を付着させるための溝が形成されている。従って、歯面に形成された溝によって潤滑剤が滑り落ちにくくなるので、ウォームギアにおいてバックラッシに関連した不具合を従来技術よりも軽減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウォームギアに関する。特に本発明は、ウォームギアにおいてバックラッシ(Backlash)に関連した不具合を軽減するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
出力側の歯車から入力側の歯車を逆回転させることができないセルフロック機能と、大きな減速比とを有する歯車機構として、ウォームギアが知られている(例えば、特許文献1参照)。ウォームギアとは、歯面を有するウォームと、これに噛み合う歯面を有するウォームホイールとで構成される回転運動の伝達機構のことである。
【0003】
ウォームは、円柱状の回転体の側面に対して螺旋状且つ連続的に歯を切り込んだ形状である。ウォームは、軸受を備えたウォームベースに対して回転可能に取付けられる。ウォームの一方の軸端は、動力源であるモータの回転軸に連結され、ウォームギアの駆動力の入力側となる。一方、ウォームホイールは、円盤の側面に歯を所定間隔で並べた形状である。ウォームホイールは、回転軸を備え、この回転軸が軸受を介してウォームホイールベースに回転可能な状態で支持され、ウォームギアの駆動力の出力側となる。
【0004】
ウォームを支持するウォームベースは、ウォームホイールベースに対して固定される。この場合、ウォームとウォームホイールとの軸間距離が一定で配置される。ここで、歯車の歯と歯が噛み合って回るときに、双方の歯車の歯が互いに接する点をピッチ点と呼び、ピッチ点では通常、転がり接触となる。また、一方の歯車の歯面と、他方の歯車の歯面との噛み合っている部分における、双方のピッチ点を含む歯面の隙間の幅をバックラッシという。
【0005】
ウォームギアでは、ウォームやウォームホイールの偏芯や歯厚のバラツキ等により、使用中にバックラッシが増加して出力軸がガタつくことがあった。反対に、バックラッシが減少してギアがくい込んでしまい、動力モータに過負荷が加わることがあった。そこで従来、滑らかな回転が得られ、かつ、適正なバックラッシで最適な噛み合わせとなるように、ラッピングなどのすり合わせ作業や、ウォームとウォームホイールとの噛み合わせの調整、および、ウォームとウォームホイールとの軸間距離の調整を行っていた。
【0006】
図1は、従来のウォームとウォームホイールの部分的平面模式図であり、ラッピング処理の説明図である。図1における斜線部分は、例えばウォーム10の歯面12とウォームホイール20の歯面22との間にラップ剤(図示せず)を入れることで、ラッピングを施した部分を示す。ラッピングを施した斜線部分では、互いの歯面において角張った部分や細かい凸凹がなくなり、両者の歯面がなじみ、滑らかな回転が得られるようになる。
【0007】
図2は、従来のウォームとウォームホイールの平面模式図であり、軸間距離の調整に係る説明図である。図2に示すように、軸間距離Dは、一点鎖線で示すウォームシャフト14の回転軸16と、この回転軸16に平行なウォームホイール20の半径26との距離である。従来技術では、最適な噛み合わせとなるように、この軸間距離Dを調整している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−92903号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したラッピングや軸間距離の調整といった作業は、熟練を要し、作業に時間を要するものであった。また、軸間距離の調整は、調整範囲に限界があり、歯底当たり等の別な問題が生じる。さらに、ラッピング処理では、バックラッシをある程度小さくすることはできても、バックラッシを完全に除去することはできない。バックラッシをさらに小さくするには、ウォームの基準円と、ウォームホイールの基準円とが部分的に重なるように両者を互いに入れ込むことになるが、バックラッシが小さいほど別の問題が生じる。具体的には、双方の歯車の歯面同士の摩擦が大きくなって、焼付きが生じたり、磨耗が促進されて耐久性が低下するなどの不具合が生じ易くなる。
【0010】
ウォームギアは、例えば、放射線治療装置において放射線の照射範囲を設定する多分割絞り装置などに用いられる。多分割絞り装置は、ウォームギアなどの回転機構によって例えば照射軸の周りに回転可能に構成され、従来製品においても、実用上は十分な精度と耐久性を有する。しかし、使用年数の経過に伴ってウォームギアのバックラッシが変化すると、放射線の照射位置の精度が若干低下するおそれがある。このため、ウォームギアを用いた回転運動の伝達機構において、バックラッシに関連した不具合をさらに軽減する技術が要望されていた。
【0011】
そこで本発明は、ウォームギアにおいて、バックラッシに関連した不具合を従来技術よりも軽減する技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るウォームギアは、回転可能に支持されていると共に外周に歯面を有するウォームと、前記ウォームとは方向が異なる回転軸を中心に回転可能に支持されていると共に前記ウォームの歯面と噛み合う歯面を外周に有するウォームホイールとを備え、前記ウォームの回転により前記ウォームホイール側に回転動力を伝達するものであって、前記ウォームホイールの歯には、潤滑剤を付着させるための溝が形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、歯面に形成された溝によって従来構造よりも潤滑剤が滑り落ちにくくなるので、ウォームギアにおいてバックラッシに関連した不具合を従来技術よりも軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】従来のウォームとウォームホイールの部分的平面模式図であり、ラッピング処理の説明図。
【図2】従来のウォームとウォームホイールの平面模式図であり、軸間距離の調整に係る説明図。
【図3】本実施形態におけるウォームギアの斜視図。
【図4】図3のウォームにおける複リードウォーム機構を示す断面模式図。
【図5】図3のウォームホイールの歯の形状を示す拡大斜視図。
【図6】本実施形態の第1の変形例における歯の形状を示す拡大斜視図。
【図7】本実施形態の第2の変形例における歯の形状を示す拡大斜視図。
【図8】本実施形態の第3の変形例における歯の形状を示す拡大斜視図。
【図9】本実施形態の第4の変形例における歯の形状を示す拡大斜視図。
【図10】本実施形態の第5の変形例における歯の形状を示す拡大斜視図。
【図11】歯すじ方向に溝を形成した変形例における歯の形状を示す拡大斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。なお、各図において同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0016】
<本実施形態のウォームギアの構造>
図3は、本実施形態におけるウォームギア30の斜視図である。ウォームギア30は、図3に示すウォーム40およびウォームホイール50と、不図示のウォームベースおよびウォームホイールベースとを有する。本実施形態の主な特徴は、ウォームホイール50の歯の形状と、ウォーム40が複リードウォームとして形成されている点にある。このため、ウォーム40を回転可能に支持するウォームベースや、ウォームホイール50を回転可能に支持するウォームホイールベースといった従来技術と同様でよい部分については、図示および詳細な説明を省略する。
【0017】
図3に示すように、ウォーム40は、ウォームシャフト41と、ウォームシャフト41の一端側および他端側にそれぞれ設けられた軸受け部42a、42bと、螺旋状の歯面43と、ウォーム調整機構44a、44bと、入力軸固定穴45とを有する。
【0018】
軸受け部42a、42bは、ウォーム40をウォームベースの軸受けに固定するためのものである。なお、図中の点線の2つの直方体はそれぞれ、軸受け部42a、42bを含む最小の直方体であり、両者は同じサイズである。これら2つの直方体の対応する頂点間を結ぶ線が図3に示すウォーム調整方向であり、これは、ウォーム40の回転軸の方向に等しい方向である。
【0019】
入力軸固定穴45は、例えば、動力源であるモータの回転軸に連結するためのものであり、ウォームギア30の駆動力の入力側となる。歯面43は、ウォームシャフト41と同軸に形成された(ウォームシャフト41より直径が大きい)円柱状の側面に対して、螺旋状且つ連続的に歯を切り込んだ形状である。
【0020】
ウォーム調整機構44a、44bはそれぞれ、ウォームシャフト41の一端側または他端側に設けられ、複数の固定ねじ46を有する。図3は、ウォーム調整機構44a、44bにより、ウォーム40における軸受け部42b側の歯面においてウォームホイール50と噛み合うようにした状態(ウォーム調整方向に、軸受け部42a側に歯面43をよせた状態)を示す。
【0021】
ウォームホイール50は、軸受け部51と、軸受け部51内に設けられた出力軸固定穴52と、外周に歯54を所定間隔で並べた略円盤状の回転体56とを有する。軸受け部51は、ウォームホイール50をウォームホイールベースの軸受けに対して固定するためのものである。出力軸固定穴52は、ウォームホイール50を出力先の回転軸に連結するためのものである。
【0022】
ウォームホイール50の歯54の歯面およびウォーム40の歯面43には、不図示の潤滑剤が塗布されいる。そして、ウォームホイール50の各歯54には、その歯面の先端の中央部から歯たけ方向に、潤滑剤を付着させるための溝58が1つずつ形成されている。溝58の詳細については、後述の図5を用いて説明する。なお、歯面を含むウォーム40およびウォームホイール50の外周部は、例えば、従来技術で用いられている真鍮系の耐摩耗性の合金を用いて形成すればよい。
【0023】
図4は、ウォーム40の歯の断面模式図であり、複リードウォーム機構の説明図である。図4における各々の歯において、右側の歯面(A歯面)と、左側の歯面(B歯面)とは、歯たけ方向(後述の図5参照)に対する傾き角度の大きさが等しい。A歯面の歯たけ方向に対する傾き角度も、B歯面の歯たけ方向に対する傾き角度も、各々の歯を通して等しい。これは、ウォーム40の回転方向が正転になる場合と、反転する場合とに対応するためである。
【0024】
図4における一点鎖線の直線は、基準円の位置に対応する。この一点鎖線と各A歯面との交点同士の幅がA歯面リードLAに対応し、この一点鎖線と各B歯面との交点同士の幅がB歯面リードLBに対応する。そして、複リードウォーム機構では、B歯面リードLBの方が、A歯面リードLAよりも大きい。さらに、図4の例では、図の右側の歯ほど、歯厚が薄くなり、隣の歯との隙間の幅が大きくなる。従って、図4の例では、ウォームホイール50とウォーム40との歯の噛み合う部分を図の右側の歯にするほど、バックラッシが大きくなる。
【0025】
なお、具体的なバックラッシの調整作業としては、まず、図3において、両側のウォーム調整機構44a、44bにおける各固定ねじ46を回して緩め、ウォームシャフト41をウォーム調整方向に移動可能にする。次に、ウォームシャフト41をウォーム調整方向に移動させ、所望のバックラッシとなるように、ウォーム40とウォームホイール50との噛み合う部分の位置を調整する。このとき、ウォームホイール50とウォーム40とが噛み合っているので、ウォーム40を回転させながら、ウォームシャフト41をウォーム調整方向に移動させることになる。この後、固定ねじ46を締めることで、ウォームシャフト41がウォーム調整方向には移動しないようにすればよい。
【0026】
図5は、図3におけるウォームホイール50の各々の歯54の形状を示す拡大斜視図である。ここで、歯厚方向、歯すじ方向、歯たけ方向について、図5に示すように定義する。まず、歯すじ方向は、ウォームホイール50の回転の中心軸方向(図3に示すウォームホイール50の回転体56の厚さ方向)であり、歯幅は、歯すじ方向における歯54の幅である。また、歯たけ方向は、ウォームホイール50の回転軸から、歯54の先端面の中心に向かう方向であり、歯たけは、歯たけ方向に沿った歯の根元から先端面までの長さである。また、歯厚方向は、歯すじ方向に垂直、且つ、歯たけ方向に垂直な方向である。
【0027】
歯54に形成された溝58の幅Xは、歯すじ方向における溝58の幅であり、溝58の深さYは、歯54の先端面から溝58の底面までの深さである(後述の各変形例においても同様)。図5の例では、溝58が歯の両側の摩擦面(図4のA歯面およびB歯面に相当するピッチ点を含む面)を貫通しているため、溝58の深さ方向は、歯たけ方向に一致する(後述の図7や図8の変形例では一致しない)。そして、溝58の位置および延在方向は、本実施形態のように歯幅の中央において、歯厚方向に沿って形成することが望ましい。溝58の位置が歯すじ方向の一方に偏ると、溝58が形成された側において歯54の強度が下がるからである。また、溝58は、本実施形態のように、その深さ方向が歯たけ方向に一致するように形成することが望ましい。即ち、溝58の両側において歯54の強度が均一になるように溝58を形成することが望ましい。
【0028】
溝58の幅Xの上限値は、例えば、歯54の歯幅の15%以下であり、且つ、0.5ミリメートル以下であることが望ましい。より望ましくは、溝58の幅Xの上限値は、歯幅の5%以下であることが望ましい。溝58の幅が広すぎると、歯54の強度が下がるからである。従って、ウォームホイール50のサイズが大きくても、溝58の幅Xを0.5ミリメートルより広げる必要性はない。
【0029】
溝58の幅Xの下限値は、溝58の中に潤滑剤が溜まり易い程度あることが望ましく、例えば、設置場所の温度(例えば、約300ケルビン)における、潤滑剤の膜厚の5倍以上であることが望ましい。例えば、設置場所の温度における膜厚が0.1ミクロンの油を潤滑剤として使用する場合、溝58の幅Xの下限値は、0.5ミクロン以上とすればよい。なお、膜厚の数倍のオーダーの薄さの溝の形成が加工精度の観点から困難である場合、溝58の幅Xの下限値は、加工精度上、最も薄くできる値と考えてもよい。従って、溝58を細くするための加工精度上の制約がある場合、一例として、歯幅約5ミリメートルに対する溝58の幅Xは、例えば0.1〜0.5ミリメートルとすればよい。
【0030】
潤滑剤としては、例えば油のように常温(例えば300ケルビン)において液体状のものや、グリスなどを用いることができる。なお、潤滑剤は、これらに限定されるものではなく、例えば、常温においてゾル状のもの、粉末状のもの、ゲル状のもの、或いは、粘性のものであってもよい。
【0031】
溝58の深さYは、歯たけの100%の深さにする必要性はない。これは、通常の動作状態では、ウォームホイール50の歯54の根元までウォーム40の歯面43が噛み合うことはないので、必ずしも、歯54の根元まで潤滑剤がゆきわたるようにする必要性はないからである。しかし、ピッチ点に常に潤滑剤がゆきわたるようにするためには、溝58の深さYは、歯たけの50%以上であることが望ましい。より望ましくは、溝58の深さYは、例えば歯たけの70〜80%であることが望ましい。
【0032】
なお、ピッチ点を含む歯54の歯面に対しては通常、滑らかな回転が得られるようにラッピングなどのすり合わせ作業が行われるが、溝58の内面に対しては、その必要性はない。溝58の内面は、潤滑剤が留まり易くするため、滑らかであるよりも、ざらざらしている方が望ましい。以上が本実施形態のウォームギア30の構造に関する説明である。
【0033】
<本実施形態と従来技術との違い>
ウォームギアは、使用前の調整として、滑らかな回転が得られるようにラッピングなどのすり合わせ作業が行われるため、通常、互いの擦れ合う歯面において角張った部分や細かい凸凹はない。仮にそのような調整が行われなくとも、使用による歯面と歯面の摩擦によって歯面の凸部はなくなり、歯面は次第に滑らかになる。従って、通常の使用状態における従来のウォームギアは、溝がないので歯面が滑らかである。
【0034】
このため、従来のウォームギアでは、潤滑剤を入れても歯厚方向の両側に潤滑剤が逃げてしまうか、重力によって潤滑剤が歯面を滑り落ちてしまい、ウォームやウォームホイールに潤滑剤が溜まりにくかった。従って、従来技術では、モジュール1.5以下のウォームギアを製造しても、実用上、十分な耐久性および歯車間の伝達精度を有するものにはできなかった。ここで、モジュールとは、[基準円の直径(単位はミリメートル)]÷(歯数)、で与えられる。
【0035】
一方、本実施形態のように溝58があると、溝58の内面に潤滑剤が留まり易くなるため、歯厚方向の両側に潤滑剤が逃げてしまう、重力で潤滑剤が歯面を滑り落ちる、といったことは殆どない。本実施形態では、動作状態から停止状態になってウォームホイール50の温度が下がると、油などの潤滑剤は、流動性が低くなって溝58の内面上に付着した状態となる。そして、再びウォームギア30を駆動させると、ウォーム40とウォームホイール50との摩擦熱により温度が上昇し、これに伴って潤滑剤は、流動性が高くなって溶け出すように湧き出してくる。従って、ウォームギア30の動作時において、ウォーム40とウォームホイール50の互いに擦れ合う面は、潤滑剤によって保護される。
【0036】
このため、本実施形態のウォームギア30では、磨耗の促進が防止される。即ち、従来技術では、使用年数の経過に伴って歯面が磨耗することで、バックラッシが変化する問題があったが、本実施形態ではバックラッシは殆どが変化しない。また、ウォーム40とウォームホイール50の互いに擦れ合う面は、常に潤滑剤によって保護された状態となるので、焼付きのおそれもない。従って、本実施形態のウォームギア30では、耐久性が大いに向上する。即ち、メンテナンスの手間も軽減され、メンテナンスフリーに近い状態となる。この結果、本実施形態のように適正な幅および深さの溝58を形成した構造であれば、モジュール1.5以下のウォームギアを製造しても、十分な耐久性および歯車間の伝達精度が得られる。
【0037】
さらに、本実施形態ではウォーム40が複リードウォームとして形成されている。このため、ウォームギア30の使用前の調整などにおいて、所望のバックラッシが得られるように、バックラッシを極めて容易に調整することができる。以上が本実施形態の基本形の説明であり、以下、本実施形態と同様の効果が得られる各変形例について説明する。なお、以下の各変形例と上記基本形との違いは、個々の歯の形状(溝の形状)のみであるため、ウォームギアの全体図については、図3と同様であるので省略する。
【0038】
<本実施形態の第1の変形例>
図6は、本実施形態の第1の変形例における歯の形状を示す拡大斜視図である。上述の例では、各々の歯54に対して溝58を1つずつ形成する例を述べたが、図6に示すように、各々の歯54aに2つの溝58aを形成してもよい。ここで、2つの溝58aの位置は、歯すじ方向に歯54aを3等分する位置であることが望ましく、図6の例では、そのように形成されている。前述のように、溝で分断された歯の各々の先端の強度が均一になるように溝を形成することが望ましいからである。
【0039】
なお、溝の数は、3つ以上であってもよい。但し、図6の例では、歯厚方向に歯を貫通する形状の溝58aであるため、溝の数が多いほど、潤滑剤は溜まり易くなるものの、歯54aの強度が下がる。従って、溝の数は、所定の耐久性が得られる程度に潤滑剤を留めることができる範囲で、最小限であることが望ましい。
【0040】
<本実施形態の第2の変形例>
図7は、本実施形態の第2の変形例における歯の形状を示す拡大斜視図である。溝は、図5や図6に示す例のように歯の先端面を分断するように形成する必要はなく、図7に示すように、歯厚方向に歯を貫通しない奥行きZで形成してもよい。ここで、奥行きZは、歯厚方向における溝58bの深さである。図7は、歯54bの一方および他方の摩擦面にそれぞれ1つずつ溝58bを形成した例を示す。ここでも歯54bの強度の均一性の観点から、2つの溝58bの位置は、歯すじ方向に歯54bを2等分する位置であることが望ましく、図7の例では、そのように形成されている。
【0041】
<本実施形態の第3の変形例>
図8は、本実施形態の第3の変形例における歯の形状を示す拡大斜視図である。歯厚方向に歯を貫通しない奥行きZで溝を形成する場合、溝の数は、歯の双方の摩擦面に1つずつに限定されるものではなく、双方の摩擦面にそれぞれ複数の溝を形成してもよい。図8は、歯54cの双方の摩擦面にそれぞれ2つずつ溝58cを形成した例を示す。ここでも歯54bの強度の均一性の観点から、4つの溝58cの位置は、歯すじ方向に歯54cを3等分する位置であることが望ましく、図8の例では、そのように形成されている。
【0042】
<本実施形態の第4の変形例>
図9は、本実施形態の第4の変形例における歯の形状を示す拡大斜視図である。第4の変形例は、歯54dの溝58dの底面の中央に、深さ方向が例えば歯たけ方向に一致するように円筒状の穴60を形成したものである。穴60以外の点は、図5に示す本実施形態の基本形と同じである。穴60があることにより、潤滑剤がさらに留まりやすくなり、ウォームギアの耐久性はさらに向上する。穴の開口の断面の直径は、潤滑剤が留まりやすく、且つ、湧き出しやすい程度であることが望ましい。従って、穴の開口の断面の直径の下限値は、例えば、常温における潤滑剤の膜厚の10倍である(次の第5の変形例についても同様)。また、穴の開口の断面の直径の上限値は、溝58dの幅Xである。
【0043】
図6に示すように歯厚方向に歯を貫通する複数の溝を形成する場合にも、全て、或いは、いずれかの溝58aの底面に穴を形成してもよい(図示せず)。図9や図6の各場合において、穴の数は、各々の溝に対して1つずつに限定されるものではなく、1つの溝の底面に複数の穴を形成してもよい。また、穴の形状は、図9に示す円筒状に限定されるものではなく、例えば、溝の底面において開口した円錐形状であってもよい。
【0044】
<本実施形態の第5の変形例>
図10は、本実施形態の第5の変形例における歯の形状を示す拡大斜視図である。第5の変形例は、歯54eの一方および他方の摩擦面に1つずつ形成された溝58eを歯厚方向に連結する円筒状の穴60eを形成したものであり、穴60e以外の点は図7に示す第2の変形例と同様である。この場合も、穴60eがあることにより、潤滑剤がさらに留まりやすくなる。また、穴60eの形状は、図10に示す円筒状に限定されるものではなく、例えば、直方体状であってもよい。なお、以上の第1〜第5の変形例において、溝58a〜58eの幅Xの上限値および下限値と、深さYについては、図5に示す本実施形態の基本形と同様に考えればよい。
【0045】
<本実施形態の補足事項>
[1]本実施形態の基本形および各変形例によれば、バックラッシによる焼付きの問題は解消されるが、さらなる耐久性の向上のため、ウォーム40の外周部(入力側の歯)と、ウォームホイール50の外周部(出力側の歯)は、それぞれ異なる金属材料で構成する方が望ましい。異種の金属間よりも、同種の金属間の方が融着して焼付きが生じ易いからである。
【0046】
[2]潤滑剤の留まりを向上させるための溝は、本実施形態のようにウォームホイール50側に形成することが望ましい。ウォーム40側は、基準側となる回転軸であるので、ウォームギアの伝達精度の観点から、溝を形成しない方が望ましいからである。
【0047】
[3]図11は、歯すじ方向に溝58fを形成した変形例に係る歯54fの形状を示す拡大斜視図である。この場合も潤滑剤の留まりは向上するので、本発明の技術思想に含まれる。しかし、溝の延在方向は、歯すじ方向から傾けることが望ましく、より望ましくは、本実施形態の基本形および各変形例のように、ウォームホイール50の回転面に平行であるとよい。
【0048】
具体的には、ウォームホイール50の回転面に平行な溝、或いは、歯すじ方向に対して斜めの溝であれば、ピッチ点がどこになろうとも、全てのピッチ点の領域が溝に含まれることはない。歯すじ方向に沿った溝は、ピッチ点を含む歯面を大きく崩すので、歯車の噛み合わせ上、あまり好ましくない。従って、図11のように歯すじ方向に溝58fを形成する場合、複リードウォームによる調整等により、ピッチ点が溝58fの位置とは一致しないようにすることが望ましい。
【0049】
[4]潤滑剤を溜める(付着させる)ための溝を歯車の歯に形成する本発明の技術思想は、ウォームギア以外の歯車にも適用可能であるが、特に、入力側と出力側の双方の歯面が常に接している構造のもの(例えば、はすば歯車やこれに類似するウォームギア)に有効である。一方の歯車に形成された溝に溜まった潤滑剤が、双方の歯車が常に接していることで、他方の歯車にもゆきわたるからである。
【符号の説明】
【0050】
10 ウォーム
12 歯面
14 ウォームシャフト
16 ウォームシャフトの回転軸
20 ウォームホイール
22 歯面
26 ウォームホイールの半径
30 ウォームギア
40 ウォーム
41 ウォームシャフト
42a、42b 軸受け部
43 歯面
44a、44b ウォーム調整機構
45 入力軸固定穴
46 固定ねじ
50 ウォームホイール
51 軸受け部
52 出力軸固定穴
54、54a、54b、54c、54d、54e、54f 歯
56 回転体
58、58a、58b、58c、58d、58e、58f 溝
60、60e 穴
D 軸間距離
X 溝の幅
Y 溝の深さ
Z 溝の奥行き

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能に支持されていると共に外周に歯面を有するウォームと、前記ウォームとは方向が異なる回転軸を中心に回転可能に支持されていると共に前記ウォームの歯面と噛み合う歯面を外周に有するウォームホイールとを備え、前記ウォームの回転により前記ウォームホイール側に回転動力を伝達するウォームギアであって、
前記ウォームホイールの歯には、潤滑剤を付着させるための溝が形成されていることを特徴とするウォームギア。
【請求項2】
請求項1記載のウォームギアにおいて、
前記ウォームは、その回転の軸方向に沿った移動によってバックラッシを調整可能な複リードウォームとして形成されていることを特徴とするウォームギア。
【請求項3】
請求項1記載のウォームギアにおいて、
前記溝は、その深さ方向が歯の先端から前記ウォームホイールの中心に向かう方向となるように、且つ、歯厚方向に延在することで歯の先端を複数に分断するように形成されていることを特徴とするウォームギア。
【請求項4】
請求項3記載のウォームギアにおいて、
前記溝の底には、穴が形成されていることを特徴とするウォームギア。
【請求項5】
請求項1記載のウォームギアにおいて、
前記溝は、その延在方向が前記ウォームホイールの回転面に平行となるように、且つ、歯を貫通しない深さで形成されていることを特徴とするウォームギア。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−185370(P2011−185370A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−51960(P2010−51960)
【出願日】平成22年3月9日(2010.3.9)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【出願人】(594164531)東芝医用システムエンジニアリング株式会社 (892)
【出願人】(502390441)東芝メディカル製造株式会社 (3)
【Fターム(参考)】