マイナス金利 静かな船出 銀行間翌日物、0%で取引成立
日銀は16日、マイナス金利政策をスタートさせた。金融機関が日銀に預ける当座預金の一部に年0.1%のマイナス金利を課す。銀行などが融資や有価証券に資金を回すように促し、企業や個人の投資や消費を活性化させる狙いがある。16日午前には銀行間の短期資金の取引で10年ぶりに0%の金利が付いた。大きな波乱はなかったが、マイナス金利に戸惑う金融機関も多いようだ。一方、一部の大手銀行などは16日から預金金利や住宅ローン金利を一段と引き下げた。
日銀は1月29日の金融政策決定会合でマイナス金利政策を導入することを決めたが、実際に適用を始めるのは2月16日からとした。適用まで時間を置いたのは、金融機関のシステム対応などに準備が必要だったことや、毎月16日から翌月15日までを1期間とするルールを考慮したためだ。
マイナス金利政策では、金融機関が日銀に預ける当座預金の一部に年0.1%のマイナス金利の「手数料」をとる。日銀が市場の金利を直接操作するわけではないが、金融機関は余ったお金を日銀に預けると損するため、マイナス金利であっても他の銀行に貸したり、国債投資に回しやすくなる。個人の住宅ローンや企業への貸出金利も下がりやすくなる。
日銀のマイナス金利政策の直接的な影響を受ける短期金融市場は16日朝、普段以上に市場参加者の様子見姿勢が強まり、取引が急減した。「コール市場」と呼ばれる金融機関同士が1日間だけ資金を貸し借りする取引(翌日物取引)では前日の加重平均(年0.074%)から大幅に低下し、年0.001%で少額の取引が成立した。その後には年0.000%(0%ちょうど)でも取引が成立した。
日銀のデータによると、同取引の金利がゼロ%を付けたのは2006年2月以来10年ぶり。日銀が大量の資金供給をしていた2000年代前半から半ばにはマイナス金利で取引が成立したこともある。
一部には翌日物取引の金利もマイナス圏に落ち込むとの見方もあったが、16日午前にはそこまでは低下しなかった。日銀の決定から2週間あまりしかなく、システム面でマイナス金利での資金取引に対応できていない金融機関も多い。マイナス金利が適用される当座預金の金額は10兆~30兆円としているが、金融機関ごとにばらつきも多く、「妥当な金利水準がみえづらい」(銀行の担当者)との声が出ている。
日銀のマイナス金利政策が始まり、金融機関も対応を迫られている。三井住友銀行は16日、普通預金の金利を年0.02%から年0.001%に引き下げた。市場金利の低下を踏まえ、過去最低に並ぶ金利水準にした。静岡銀行も同様の引き下げに踏み切った。
定期預金の金利は日銀がマイナス金利政策を発表して以降、3メガバンクをはじめ多くの銀行が引き下げに動いている。この流れが普通預金にも及んできた格好で、個人の預金金利収入は一段と細ることになる。
一方、住宅ローン金利を下げる動きも出ている。三井住友銀は同日から主力の10年固定型の最優遇金利を0.15%下げ、過去最低の年0.9%にした。ほかのメガバンクなども普通預金や住宅ローンの金利引き下げで追随する見通しだ。
日銀の黒田東彦総裁は16日の衆院予算委に出席し、マイナス金利の効果として「今後、実体経済や物価面に表れてくる」との考えを示した。既に「銀行の住宅ローン、その他の貸出金利が下がっている」と説明した。
麻生太郎財務・金融相は同日の閣議後会見で、日銀のマイナス金利導入による経済への効果について「もう少し時間を持って見守る姿勢が必要だ」と述べた。
金融機関が日銀にマイナス0.1%でお金を預けるよりも市場で小幅なマイナス金利で他の金融機関に貸した方が有利だと判断すれば、1日間だけお金を貸し借りする取引(翌日物取引)などでもマイナス金利が付く。
短期金利の低下に先回りする形で、長期金利の指標となる10年物国債の利回りは9日に初めてマイナスを付けた。
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