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北海道経済 連載記事

2011年1月号

第10回 見えてきた裁判員制度の問題点

09年8月、裁判員制度の下で裁判が行われるようになって以来、社会の刑事裁判制度に対する注目がかつてないほどに高まっている。今回の辛口法律放談は、導入以来約1年半が経過し、次第に浮き彫りになってきた裁判員制度の課題について。(聞き手=北海道経済編集部)

裁判員制度の導入以来、これまでに下された判決をみてみると、導入前の刑事裁判における量刑(いわゆる量刑相場)よりも重くなる傾向が全国的にあるように思います。近時、厳罰化の傾向にありましたが、裁判員制度導入によって、厳罰化が加速した感があります。

先日、旭川地裁の元事務官による連続強盗強姦事件の裁判で、無期懲役の判決が下されました。この量刑選択の背景には、裁判所職員による犯行であり、身内に甘いという批判を避けるという意味もありそうです。もっとも、5~10年ほど前には、犯行件数が多く、犯行態様もより悪質と考えられる事例で、10数年から20年の有期懲役刑が選択されていたことも事実です。

厳罰化傾向ではありますが、死刑判決についてはやや傾向が異なるようです。最近、裁判員にとっての死刑判決の難しさを感じさせる判決も相次ぎました。いわゆる「耳かき店員殺人事件」の裁判では、2名を死亡させた事例で死刑判決を回避し、無期懲役となりました。また、横浜で男性2人を殺害した被告には死刑判決を下されたものの、裁判官自らが控訴を薦めて注目を集めました。プロの裁判官にとっても難しい死刑にすべきかどうかの判断に、いわば素人である裁判員に関与させていいのかという疑問を感じます。

そもそも、裁判員制度は殺人、強盗致傷、危険運転致死など「重大犯罪」の裁判が対象となっていますが、このような罪の裁判では被告の責任能力の有無など、高度な法的知識に基づく判断を求められる場面が少なくありません。判断が難しいのに審理時間が短いことも問題です。むしろ、速度違反や万引き等の窃盗といった、いわば「日常的な犯罪」を対象にした方が、裁判員に選ばれた人の戸惑いや不安は軽減されるように思います。

裁判員裁判が行われるかどうかは起訴罪名によって決まります。例えば、人の住む家の玄関前にある清掃用具に火をつけ、壁に燃え移り、若干壁を焦がしたところで、運よく消火された場合、器物損壊罪、建造物損壊罪、建造物等以外放火罪、現住建造物等放火罪のいずれにも該当すると考えられますが、どの罪名で起訴するかは、検察官の判断・裁量に委ねられているので、その判断次第で量刑にも大きな影響が生じます(器物損壊罪の場合、罰金刑もあり得るのに対し、現住建造物等放火罪の場合は、死刑または無期もしくは5年以上の懲役となる。)。四罪のうち、裁判員制度の対象となるのは現住建造物等放火罪だけです。裁判員には起訴罪名だけに注目するのではなく、検察官がどのような理由でその罪名での起訴を選択し、他の罪名での起訴を見送ったのかをも考慮して、量刑の判断をしてほしいと思います。

また、裁判員裁判は、量刑相場にとらわれないところが長所とされているようですが、量刑のばらつきが生じうることは問題だと思います。類似事件と比較して明らかに重すぎる、または軽すぎる判決が下されることは、裁判員の人選により量刑に大きな差が出ることを意味するので、やはり不公平であり、最高裁判所が裁判員に開放することを決めた量刑データベースの積極的活用等、量刑相場を考慮するしくみの整備が必要なのではないでしょうか。(談)